CaseStudy:8 茨城の食材とフランス伝統菓子のマリアージュ
東京のパティシエールが水戸に店をオープンさせた理由

Maison Weniko(メゾンベニコ)
オーナーパティシエール Weniko(ベニコ)
東京→茨城Iターン2010年
オーナー兼マネージャー ユウ
宮城県→茨城Iターン2015年

「弁護士志望からお菓子作りの道へ」

大学へ進学したものの、元々料理やお菓子作りが好きだったこともあり、同級生が司法試験合格を目指して勉強を続ける中、より自分に向いているお菓子作りを極めるために料理学校の「ル・コルドン・ブルー代官山校」へ通いお菓子作りをする方を選んだ。卒業後、東京西麻布のスフレ専門店「ル・スフレ」を皮切りに、麹町「パティシエ・シマ」、フランス・アルザス「メゾン・フェルベール」といった名店で修業を積む。
お菓子作りは想像以上に頭を使う仕事。常に2つや3つの工程を同時に行うことが必要だった。どちらかというとベニコさんが苦手とする作業だったが克服することを決心。シェフの動きを全部見て、家に帰ったらノートに書き出し、動きをシミュレーションする訓練を重ねた。努力の甲斐があって、フランスから帰国後、東京ミッドタウン「cuisine- francaise JJ」(現在は閉店)ではシェフパティシエールを任されるまでに成長することができた。

「条件にぴったりの物件を水戸で見つける」

独立を考え始めたベニコさん。具体的な店舗の希望は3つあった。1つは立地場所が大通りから1本中に入ったところにあること。その方が表に花を飾るなど、思ったとおりのアレンジが可能になると考えた。2つめは近くに美術館があること。美術鑑賞好きのベニコさんらしい条件だ。最後の3つめは10坪ぐらいの店舗であること。それぐらいの規模が「目が届く範囲の店舗」という意味で理想の大きさだった。

東京で物件を探してみたが見つからなかった。というのも広さ10坪の店舗は人気が高く、表に出る前に内々で話が決まってしまうことが常だった。そんな時、展覧会を鑑賞するため水戸を訪れたベニコさんは、偶然「貸店舗」の貼紙を目にする。それが現在の店舗との出会いだった。京成百貨店脇のその店舗は、ベニコさんが希望する条件をすべて満たしていた。理想の店舗を水戸で見つけたはいいが、東京から地方都市へ引っ越して来るには決心が必要だった。地元の人たちの親切さが、背中を押してくれた。また、内装を改装するための補助金が出るなど条件にも恵まれていた。こうして2010年の12月、フランス伝統菓子をメインとする「メゾンベニコ」がオープンした。

「フランス伝統菓子と茨城の食材の関係」

ベニコさんが水戸に店をオープンした最も大きな理由は、茨城が優れた農産物の産地であったこと。洋菓子店の果物は、通常果物店から仕入れることが多いが、ベニコさんは農家と直接取引をしている。生産者の顔を見ることでお菓子作りに必要なインスピレーションを与えてもらうこともあるそうだ。例えばいちご、りんご、ブルーベリー、ルバーブ、トマトなど地元農家から仕入れている農産物は数えきれない。また、ガレットに入れるそば粉や、お菓子作りに欠かせない卵も茨城産だ。元々茨城県産を探しているが、農家さんを訪ね、生育方法の話などを聞き、味に納得したうえで取り引きをしている。「メゾンベニコ」のお菓子は、材料に妥協せず、値段が多少高くても、おいしいと思えるものを使うことをポリシーとしている。それがあるから舌の肥えた多くのファンに愛されているのだ。

現在同店にはベニコさんのほかに、ユウさんという共同経営者がいる。ベニコさんにとってユウさんは、お客様に向けて「メゾンベニコ」の良さを分かりやすく伝えることが得意なパートナーだ。お菓子というと嗜好品のイメージだが、ユウさんは「健康は良い食材選びからはじまる」という栄養学的考えに基づいて、身も心も満足するお菓子選びを積極的に助言している。以前病院に勤務していたユウさんによると、お店での接客は医療従事と類似しているという。なぜならお客さんに商品を提案する際に、コミュニケーションを通じてお客さんの望みを類推する必要があるからだ。またユウさんは実際にベニコとともに産地や農家を訪問し、生産者の視点と消費者の視点からの分析をブログなどにアップしている。現在は、日本を取り巻く農業全般にも強い興味を抱き、日々勉強を重ねている。

手間がかかることで知られるフランス伝統菓子を作る洋菓子店は案外少ない。これまでは東京まで買いに行っていたという地元の人は、水戸に「メゾンベニコ」が出来たことを心から歓迎している。同店の存在は徐々に、本物嗜好の洋菓子ファンの間に浸透しつつある。これほど材料にこだわったお菓子の中に、茨城の食材が多く使われていることを、私たちは誇りに思いたい。

水府庵(水戸)から仕入れる極上のそば粉。人気の焼き菓子「そば粉のガレット」に合わせた絶妙の挽き具合で提供してくれる。

自信作の「コンフィチュール(ジャム)」。ブルーベリーのほかにも、茨城産の果物がふんだんに使われている。本物の味と香りを楽しもう!

「コンフィチュール」製作中。フランスで修行した「メゾン・フェルベール」はジャムの名店として知られる店。本場仕込みのおいしさをぜひ!

「言語聴覚士」の国家資格を持つユウさん。お店の魅力をお客様に伝えることが得意という強力なパートナー。

ベニコ プロフィール

東京都生まれ。大学在学中にフランス系の料理学校「ル・コルドン・ブルー代官山校」でお菓子作りを学ぶ。その後、東京西麻布「ル・スフレ」、麹町「パティシエ・シマ」、フランス・アルザス「メゾン・フェルベール」で修行。帰国後、東京ミッドタウン「cuisine- francaise JJ」のシェフパティシエールを務める。2010年12月、茨城県水戸市に「フランス菓子Maison Weniko」をオープン。

ユウ プロフィール

佐賀県生まれ、神奈川県育ち。東北大学医学部大学院で基礎研究に従事。専門は脳科学。「言語聴覚士」の国家資格も取得。大学院時代には児童相談所で発達障害の子供の検査及び指導を行う。その後宮城県内の市民病院に就職。高次機能障害というまだまだ認知度の低い障害において、当事者及び家族へ社会復帰に向けた取り組みを精力的に行う。しかし東日本大震災後多忙を極め、自身の健康状態に不安を抱き転職を決心。共通の知り合いを通じて出会ったベニコと意気投合し、2年前から茨城に移住して経営に携わる。

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