CaseStudy:6 建築用美術鍛造の素晴らしさを伝えてニーズを創出
修業先の本場ドイツから日立市に移住した鍛冶職人

鍛治工房 studio ZWEI(スタジオ ツヴァイ) 代表 宇田 直人
ドイツ→茨城Iターン2002年

「建築用美術鍛造の本場ドイツで修行後、日立市に鍛治工房を設立」

鍛冶職人として活躍を続けている宇田直人さん。日立市に工房と自宅を構えたのは、たまたま知り合いがいたから。鍛治仕事をするための広さが充分で自然豊かな現在の場所を見つけ、工房を開いた。金属工芸と産業造形金工の芸術学士取得後、鍛造技術習得のためおよそ5年間、日本とドイツで修業。2002年10月、茨城県日立市十王町に鍛治工房「studio ZWEI」を設立した。

鍛治というのは鉄などの金属に熱を加え、ハンマーで叩くなどして整形していく伝統的な技法。ロートアイアン、火造鍛造(ひづくりたんぞう)、鍛鉄(たんてつ)と呼ばれることもある。日本では農機具や刀を造るための実用的な鍛治技法が発達してきた。一方、ドイツを含むヨーロッパでは、日本のように道具だけではなく、建築に結びついた室内外の装飾物を造るための技法が編み出され発展してきた。この違いがあるため宇田さんは、日本で修行した後、ドイツへ旅立った。職人の地位が高く、鍛冶職人が街づくり全体を主導していくケースも珍しくないその国で、宇田さんは大いに学び、大いに刺激を受けた。

「建築用美術鍛造がメイン、イスやテーブルなどの調度品も」

日本とドイツで修行を積んだ宇田さんの製作に対する意識は高く、デザインを自らが行うことでオーダーメイドのニーズに応えている。具体的には建築用美術鍛造がメインで、鉄製の階段や手すり、イスやテーブルなどの調度品、門扉や外柵などのエクステリア関連用品を一から製作している。住宅の建築は日本では一般的に、建築会社や設計会社が主導して製作を行うケースが多い。その中で宇田さんは、必要とされれば自身の専門である鍛治仕事が絡む部分のアドバイスやデザイン提案を行っている。

「鍛治仕事の素晴らしさを伝えることでニーズを開拓」

仕事上は特に何のつながりも無く、現在の場所に工房を開いた宇田さん。日本では建築用美術鍛造の馴染みが薄いこともあり、設立当初は仕事がまったく無かった。そのためドイツでの仕事を資料にまとめ、建築事務所や工務店、造園会社などに美術鍛造を導入することのメリットや効果、現実性などを伝える日々が続いた。飛び込み営業という過酷な戦術だったが、徐々に興味を持ってくれる会社が増え、現在では忙しい日々を送っている。

2014年には自作の家具やインテリア用品を中心にしたショップ「鍛治KAGU」を工房に隣接する自宅内にオープンした。宇田さんの作品に直接触れられる貴重なスペースで、住宅やオフィスの中に宇田さんの作品を取り入れたいと考えている人は予約して訪れてみるといいだろう。基本オーダーメイドになるので、カタログ通販のようにサイズが無かったりするようなことは無い。希望するイメージを伝えればデザインから製作してくれる。「鍛治KAGU」では宇田さん以外のアーティストの個展も開催されている。これまでには茨城県笠間市で活動を行う陶芸家の個展が開かれ好評だった。

「日立に住み続ける理由、たくさんの仲間が集まれる場所」

順調に鍛冶職人としての仕事をこなす宇田さんは、「鍛治仕事を続けているあいだは日立から他所へ移り住むことは無い」と話す。鍛冶職人は工房が必要になる仕事なので、簡単には引っ越しができないというのが大きな理由のひとつだ。また、オーダーメイドという性質上、クライアントとの打ち合わせが不可欠で、そのため遠方の顧客を獲得することが難しいという事情もある。スタジオツヴァイとしても、既存のクライアントにしても、引っ越しは好ましくないのだ。

現在、宇田さんは年に1回、プライベートで「流しソーメンパーティー」を開催している。広い敷地があるからこそ可能なパーティーで、20台以上車を停められる広さはあるが、それが足りないぐらい多くの友人・知人が集まるそうだ。元々は近場で知り合った気心が知れたメンバーだったが、転勤などの理由で引っ越した人もいる。それでも遠方からの参加者も少なくない。「友だち関係って、ある程度維持する努力をしていかないと疎遠になってしまうよね」と宇田さん。誰かの努力があるからこそ、結ばれた絆は続いていく。移住者を呼び込むことも大切だが、やむを得ない理由で転出していった人とも交流が続いていることも、同じくらい大切なことなのかもしれない。

●竹林
竹を刈り取る宇田さん。竹林があるのは自宅の敷地内というから驚きだ。こんなにも自然に恵まれた環境だが茨城ではさほど珍しくもない。都心では考えられないだろう。

●自然の恵み
流しソーメンで仲間をおもてなし。この大掛かりな流しソーメン用の竹は目の前にある自宅の竹林から拝借したもの。まさに自然の恵み。

●緑に囲まれた庭
都会の人がうらやみそうな緑に囲まれた広い庭で仲間がくつろぐ。ハンモックが心地良さそうだ。こんなに広々とした空間が手に入るのは田舎だからこそ。

●作業風景
工房の作業風景。鍛造を行うために材料の鉄を高温で熱し、軟らかくする。夏は過酷を極めるが、鍛冶職人として欠かせない工程。

●ZWEIのロゴ
「studio ZWEI」のロゴも鍛造作品。技術的に難しい曲線を取り入れたり、質感を調整したりすることで、作品としての表情が活き活きと現れる。

●鍛治KAGU
自宅内に設けられた宇田さんの作品を展示するショップ「鍛治KAGU」。古民家ゆえの雰囲気が秀逸でギャラリースペースとしても開放している。

宇田 直人(うだ・なおと)プロフィール

1970年埼玉県生まれ。1995年から富山県高岡市の国立高岡短期大学(現在は富山大学高岡キャンパス)で金属工芸と産業造形金工を学び芸術学士取得。1997年から2002年まで鍛造技術取得のため日本およびドイツで修行。帰国後の2002年10月、茨城県日立市十王町に鍛治工房「studio ZWEI」を設立。2014年、自作の家具やインテリア用品を中心にしたショップ「鍛治KAGU」を工房に隣接する自宅内にオープン。家族と暮らす。

■studio ZWEI
http://www.net1.jway.ne.jp/s.zwei/
■鍛治KAGU
http://kajikagu.com

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